鉄道は旅客や貨物の大量ならびに高速・長距離輸送、大気汚染物質排出量、エネルギー消費効率などの多くの面で、他の輸送モードに比較して優れた特性を有し、多くの国々で全国的な鉄道網と言う膨大でかつ貴重な社会資本を形成している。しかしながら、開発途上国鉄道の多くは、輸送サービスの質、量共に他のモードに比較して低下する傾向にあり、政府負担の増加を招いてその国の社会や経済に少なからぬ負の影響を及ぼしている。これが更に運輸セクターの中での鉄道の役割の低下、経営の悪化、近代化の頓挫と言った悪循環を招いている。わが国は経済協力開発機構加盟国の中でも、鉄道分野に対する政府開発援助に積極的に参加している数少ない国の一つであ。本研究は以上のような視点から、鉄道分野に対する政府開発援助のあり方について検討したものである。最初に、開発途上国の中から鉄道が主要な運輸交通モードを形成している国を取り上げ、鉄道がその国の経済、特に、運輸セククーの中で果たす役割を分析評価し、技術的および経営上の問題点を抽出した。ついで、これらの開発途上国鉄道に対する我が国政府開発援助の実績評価に基づいて、今後取り組むべき課題を指摘した。我が国の援助戦略の国際的な位置づけを知悉する事は国際協力を進める上で、また、効果的かつ効率的な援助政策を策定する上でも重要である。そこで、我が国と並んで鉄道分野における援助実績の大きい世界銀行とアジア開発銀行を選び、それぞれの援助戦略を分析評価して、我が国援助戦略の改善策を提示した。さらに鉄道の効率性評価に適した実用的な指標を設け、この指標を用いて開発途上国鉄道の類型化を試みた。同一グループに属する鉄道については他の鉄道に対する開発援助の経験が活用できるとの発想である。最後に、以上に述べた分析評価によって得られた知見を総括して、開発途上国鉄道に対る我が国政府開発援助の改善策を提言した。 |