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財団が助成する交通関係の調査及び研究の成果を論文要旨でご紹介しています。 |
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助成番号 |
94_1_5 |
研究テーマ(和文)
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日本鉄道業の形成と地域社会 |
研究テーマ(欧文)
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Local Communities and the Establishment of Railways in Modern Japan. |
研究代表者
氏名 |
カタカナ |
ナカムラ ナオフミ |
漢 字 |
中村 尚史 |
ローマ字 |
Nakamura, Naofumi |
研究代表者年齢 |
37 |
研究期間 |
1994〜1995年 |
報告年度 |
1995年度 |
研究体制 |
個人研究 |
研究代表者所属機関・職名 |
東京大学 社会科学研究所・助手 |
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※所属、氏名、年齢は助成対象決定時のものです。 |
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本研究は、日本鉄道業の形成と地域社会の総合関係を検討することを通じて、日本における「近代化」過程の実態と、そのもたらした社会的影響を、政治・経済・社会の各方面から考えることを主要な課題としている。具体的には、まず19世紀末における日本鉄道業を(1)創業期(1870年代)、(2)形成期(1880年代)、(3)発展期(1890年代)の三つの時期に区分し、それぞれの時期における鉄道業の事業構想、経営展開、輸送の展開と他産業との関係などについて、実証的に分析することに努めた。その成果は、以下の通りである。 |
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まず明治初期の鉄道事業構想については、多くの鉄道事業構想の事例を集めた上で、これらの事例を所有、経営、技術の各側面に注目しながら類型化し、さらにそれが鉄道政策とどのような関係にあるのかを考察した。その結果、1870年代の鉄道業は、異なった指向性をもつ諸事業主体が、所有・技術・経営それぞれの分野における自己の要求を貫徹するため、誰とその様な形で結合するのかという妥協点を模索し続けるという状況にあったことが判明した。そして当該期において、その合意が比較的早く形成されたのは、民の資金と官の技術の組み合わせであり、逆に最後まで対立の焦点となったのは経営の主導権問題であった。 |
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また明治期における鉄道企業の経営展開については、九州鉄道会社を事例として、主に経営組織の形成過程における企業と地域社会との関係を考えた。その結果、まず地域振興を旗印に発起された当該期の鉄道企業は、その創立期においてはレントナー系大株主の支持を受けながら、収益性の確保と地域からの自立に努めたが、分割払込制による地域の発起株主への長期的な資金依存や、用地買収など路線建設に際しての依存もあって、地域の強い監視からなかなか脱却できなかったことが判明した。そして、その克服のためには安定株主の獲得と社債発行による資金的な地域依存の脱却と、主要貨物の米から石炭への転換に伴う輸送市場における依存の脱却、さらには予定線路建設の終了による地域利害対立の鈍化といった諸条件が必要であった。 |
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さらに、鉄道輸送に関しては、筑豊地域における石炭輸送を事例として取り上げ、鉄道輸送の手続きから鉄道と旧来の輸送手段(遠賀川舟運)の関係、さらには鉄道会社と炭坑会社の関係にいたるまで、幅広い問題を扱った。その結果、まず明治期における石炭輸送の技術的な実状が明らかになるとともに、鉄道時代における舟運の役割として(1)安定的な水上輸送が可能な下流域における全面期な水運依存、(2)鉄道の支線的な存在としての役割、(3)鉄道輸送の安定的利用がむずかしい小規模炭坑の利用、(4)鉄道の慢性的な輸送力不足の補完といった諸側面を指摘できた。 |