春陽会は1923年に第1回展が開催された、現在も活発に活動を続ける美術団体です。民間最大の美術団体だった日本美術院の洋画部を脱退した画家たちで構成された創立会員を中心に、新進気鋭の画家たちが加わり新団体「春陽会」を結成しました。
彼らは同じ芸術主義をもつ画家たちの集団であろうとはせず、それぞれの画家たちの個性を尊重する「各人主義」が大事であると考えました。また、春陽会の展覧会には油彩だけではなく、版画、水墨画、さらには新聞挿絵の原画などが形式にとらわれずに出品されました。そして、春陽会では画家たちが互いの作品を批評しながら芸術のために研鑽を積み、次世代育成をも念頭に基盤を固めていったのです。
出品作品のなかに、自らの内面にある風土(土着)的なもの、日本的ないしは東洋的なものを表現しようとする傾向が早くからみられたことは、注目すべき点でしょう。
すでに知名度のある花形の画家たちにより組織され、帝国美術院、二科会に拮抗する第3の洋画団体として誕生した春陽会。本展は、その創立から1950年代までの葛藤に満ちた展開を100点以上の作品で辿ろうとするものです。
岡鹿之助《山麓》1957年、京都国立近代美術館
岡鹿之助《山麓》
1957年、京都国立近代美術館
創立会員:足立源一郎、梅原龍三郎、倉田白羊、小杉未醒(放菴)、長谷川昇、森田恒友、山本鼎
創立客員:石井鶴三、今関啓司、岸田劉生、木村荘八、椿貞雄、中川一政、山崎省三、萬鐵五郎
東京ステーションギャラリーで過去に回顧展を開催したことのある岸田劉生、木村荘八、河野通勢。その名を冠した美術館をもつ小杉放菴、三岸好太郎、硲伊之助。のちに文化勲章を受章した梅原龍三郎、中川一政、岡鹿之助。フランス画壇でも評価された長谷川潔。日本近代美術のお馴染みの画家の作品が展示室を彩ります。
小杉放菴《母子採果》1926年頃、小杉放菴記念日光美術館
小杉放菴《母子採果》
1926年頃、小杉放菴記念日光美術館
河野通勢《芝居図》1923年、府中市美術館
河野通勢《芝居図》
1923年、府中市美術館
2020年度より研究者を交えた春陽会関係者と開催館学芸員、あわせて約10名が毎月のように集まり、調査の結果を持ち寄って展示作品をセレクトしました。その結果、春陽会の第1回展からの出品作を多く含む50名近い画家たちによる良質な作品が、約50カ所の所蔵先から集まるというこだわりの内容になりました。
長谷川潔《アレキサンドル三世橋とフランス飛行船》1930年、碧南市藤井達吉現代美術館
長谷川潔《アレキサンドル三世橋とフランス飛行船》
1930年、碧南市藤井達吉現代美術館
萬鐵五郎《羅布かづく人》1925年、岩手県立美術館
萬鐵五郎《羅布かづく人》
1925年、岩手県立美術館
春陽会設立から第3回展まで、岸田劉生が春陽会に所属していた時期の作品11点が本展に出品されます。油彩では三味線を弾く麗子像や芝居絵、日本画では寒山拾得図と二人の麗子像も登場。梅原龍三郎も評価していた劉生が当時表現しようとした「東洋の美」とはいかなるものだったのか、会場でご覧ください。
岸田劉生《麗子弾絃図》1923年、京都国立近代美術館
岸田劉生《麗子弾絃図》
1923年、京都国立近代美術館
岸田劉生《竹籠含春》1923年、個人蔵
岸田劉生《竹籠含春》
1923年、個人蔵
代表作《パンの会》、第1回直木賞作家川口松太郎が傑作と推す《川岸夜(明治一代女)》、永井荷風『濹東綺譚』挿絵(原画)といった代表作に加え、絵と文により日本芸術院恩賜賞を受賞した『東京繁昌記』の表紙のために描かれた《銀座みゆき通り》など12件をご紹介。
木村荘八《私のラバさん》1934年、愛知県美術館
木村荘八《私のラバさん》
1934年、愛知県美術館
木村荘八《銀座みゆき通り》1958年、東京ステーションギャラリー
木村荘八《銀座みゆき通り》
1958年、東京ステーションギャラリー
中川一政の作品は、第1回展の頃の草土社風の静物画、大衆に親しまれた尾﨑士郎『人生劇場』の挿絵原画、強い存在感を放つ人物画、駒ケ岳、向日葵を描いた油彩画など6件を紹介します。そして、細かい筆触で風景や花などを描き、若い画家たちに強い影響を与えた岡鹿之助の油彩が6点展示されます。
中川一政《尾﨑士郎著『人生劇場』20 原画》1939年、真鶴町立中川一政美術館
中川一政《尾﨑士郎著『人生劇場』20 原画》
1939年、真鶴町立中川一政美術館
中川一政《女優像》1941年、真鶴町立中川一政美術館
中川一政《女優像》
1941年、真鶴町立中川一政美術館
椿貞雄《朝子像》1927年、平塚市美術館
椿貞雄《朝子像》
1927年、平塚市美術館
アーティゾン美術館で開催の「創造の現場―映画と写真による芸術家の記録」展(会期:9月9日―11月19日、会場:5F展示室)にて、本展出品作家の木村荘八、中川一政、小杉未醒(放菴)、梅原龍三郎、鳥海青児の作品と制作風景や日常の様子を記録した貴重な映像が紹介されています。
展覧会の詳細はこちら
木村荘八(美術映画シリーズ「美術家訪問 第2集』1954年より) *「創造の現場」展参考画像
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