20世紀初頭のノルウェーで最も傑出した画家の一人として、近年、世界的に評価が高まっているニコライ・アストルップ(Nikolai Astrup / 1880-1928)の日本初回顧展を開催します。
険しい山々に囲まれた西ノルウェーの湖畔の村、ヨルステル(現・スンフィヨルド)で育ったアストルップは、生涯にわたってこの地を拠点とし、天候や季節ごとに変化する自然と人々の暮らしを描きました。白夜の空に炎が燃え上がる幻想的な夏至祭、工芸品が彩る室内の情景、自ら育てた果樹やルバーブなどの植物――。とりわけ、食糧を生み出す生活の場であり、芸術的な関心を向けた創造の場でもある“庭”は、彼の芸術を体現するモティーフとなりました。
アストルップの絵画の魅力は、類稀な色彩感覚に支えられた独自の象徴性にあります。常に現実世界を描きながらも、鮮烈な色彩と大胆なデフォルメを用いて、日常の光景を、観る者の記憶や感覚を呼び起こす象徴的な画面へと昇華させたのです。また、アストルップはきわめて独創的な版画家でもありました。日本の浮世絵版画に影響を受けつつも、油絵と木版を組み合わせる類例のない手法で制作された彼の版画は、すべてが一点ものと呼べる多様性を有しています。
本展では、油彩画に加え、独自の境地を拓いた木版画、再評価が進むテキスタイルデザインの仕事も紹介し、画業の全貌に迫ります。代表作を一堂に集めた珠玉の展示空間で、北欧・ノルウェーの自然と暮らしを詩情豊かに描いたアストルップの芸術世界をご堪能ください。
私はおそらく、この国で最も大地に根ざした画家の一人である。
――――ニコライ・アストルップ、1908年
《春の夜と柳》1917-27年の間、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
《春の夜と柳》
1917-27年の間、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
《夏至の祭火》1915年、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
《夏至の祭火》
1915年、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
《石の上の鳥》1908-13年の間、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
《石の上の鳥》
1908-13年の間、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
北欧・ノルウェーを代表する画家といえば、誰もがまず思い浮かべるのがエドヴァルド・ムンクでしょう。その17歳年下で同時代に活躍したアストルップは、ノルウェー国内ではよく知られていますが、世界的にはムンクの圧倒的な名声の陰に隠れ、長らく十分に紹介される機会がありませんでした。しかし2016年、さらに2021〜22年に国内外を巡回する大規模な個展がおこなわれ、今その芸術に注目が集まっています。本展は、満を持して開催される日本初の大回顧展です。
《ジギタリス》1920年頃、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
《ジギタリス》
1920年頃、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
《山》1905-06年、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
《山》
1905-06年、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
植物に対して並々ならぬ情熱をもっていたアストルップは、さまざまな苗木を手に入れては、自宅の庭で実験的な栽培を繰り返しました。庭は、飽くなき探究の精神に支えられた彼の芸術のメタファーとも捉えることができます。幼少期を過ごした牧師館のあるオールフースの庭と、一から開拓し、最後の住まいとなったサンダルストランの庭。画家の創作の源泉となった、二つの庭が描かれた作品群を展示します。ムンクも賞賛したといわれる、ニュアンスに満ちた緑の色彩は必見。本展のために現地で撮影された四季折々の映像を交え、臨場感あふれる空間でアストルップ芸術の真髄をご覧ください。
私はこの山村で育つ可能性のあるもの、そして育たないものまで、
あらゆる植物の栽培を試すのが、どうしようもなく好きなのだ。
――――ニコライ・アストルップ、1918年
《ルバーブ》1911-21年、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
《ルバーブ》
1911-21年、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
《花咲くリンゴの木》1926-27年、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
《花咲くリンゴの木》
1926-27年、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
アストルップの版画は、とても型破りでした。その最大の特徴は、一点ずつ手で加筆する、カンヴァス上で版木による摺りと手描きを併用するなど、木版画と油彩画の境界を自由に行き来する唯一無二の手法にあります。大都市の工房から遠く離れた場所に暮らしたアストルップは、すべての工程を自身でおこなう必要がありました。その結果、技法そのものを自らつくり上げることとなったのです。試行錯誤を重ねてたどり着いた彼独自の手法は、多大な労力と時間を要するものでした。本展では、アストルップの木版画や油彩画と版木を合わせて展示し、その比類ない創造の秘密をひも解きます。
もしすべての摺りを全く同じにしてしまえば、
それはあまりにも退屈で、芸術的ではないだろう。
――――ニコライ・アストルップ、1927年
《6月の夜の庭》1909-27年の間、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
《6月の夜の庭》
1909-27年の間、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
《石の上の鳥》1905-14年の間、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
《石の上の鳥》
1905-14年の間、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
《リュウキンカの夜》1915-27年の間、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
《リュウキンカの夜》
1915-27年の間、DNB貯蓄銀行財団/コーデ・ベルゲン美術館 Photo: Dag Fosse / Kode
アストルップの母親は、地域で主導的な役割を果たしたテキスタイル作家でした。アストルップ自身も、画家としての道を本格的に歩み始める前に、地元の植物を題材とした織物のデザインを手がけています。彼のデザインをもとに母親が織ったテキスタイルは、ノルウェー国内の博覧会で受賞するなど高く評価されました。近年、再評価が進むこの分野の仕事を紹介し、幼い頃から芸術的な手仕事とともにあった家庭環境が、アストルップの創作に与えた影響を検証します。
《大きな青い壺のある室内》1921-22年、個人蔵 Photo: Thomas Widerberg
《大きな青い壺のある室内》
1921-22年、個人蔵 Photo: Thomas Widerberg
ペール・クラーメル撮影、ニコライ・アストルップ、1920年頃、個人蔵
ペール・クラーメル撮影、ニコライ・アストルップ
1920年頃、個人蔵
[チケット販売場所]