フィンランドのモダンデザイン界で圧倒的な存在感を放つタピオ・ヴィルカラ(1915-1985)の日本初回顧展です。1940年代後半から1950年代にかけて、イッタラ社のデザインコンペ優勝やミラノ・トリエンナーレのグランプリ受賞によってヴィルカラは一気に脚光を浴びました。デザインのフィールドはガラスのほかに磁器、銀食器、宝飾品、照明、家具、グラフィック、空間まで広くおよびます。数多くのドローイングやプロトタイプを重ね、あらゆる素材に向き合い、触覚と視覚を鋭く働かせて生みだす洗練されたフォルムはヴィルカラの作品の見どころです。
セラミック・アーティストの妻ルート・ブリュック同様、ヴィルカラはラップランドの静寂をこよなく愛し、生命の神秘や大自然の躍動から得た着想は、「ウルティマ・ツーレ」(ラテン語で「世界の最北」を表す言葉)をはじめとする名作を誕生させました。また、神話をモチーフにしたガラスのオブジェや、自ら開発した積層合板「リズミック・プライウッド」を用いたオブジェ、土や風すら味方につけるランドアートには、プロダクト・デザイナーとは異なる表現者の顔をのぞかせます。
本展は、エスポー近代美術館、タピオ・ヴィルカラ ルート・ブリュック財団およびコレクション・カッコネンから厳選したプロダクトやオブジェ約300点に加え、写真やドローイング(複写)を展示します。デザイナー、彫刻家、造形作家としての、繊細にしてダイナミックなヴィルカラの魅力に迫ります。
ヘルシンキのオフィスにあった愛用品や、作品の着想源になったものなどを紹介します。
ガラスや磁器のテーブルウェア、シルバーやステンレスのカトラリー、商品のボトルやパッケージ、機内用のプラスチック製食器、照明や家具、ゴールドのアクセサリー、紙幣やグラフィックにいたるまで、ヴィルカラは異なる言語を巧みに操るかのように、あらゆる素材であらゆるものを手がけました。約200点を一堂に並べ、プロダクト・デザイナーとしての彼の仕事を振り返ります。
1960年代、ヴィルカラはフィンランドの最北地ラップランドのイナリにも居を構え、ここで心身を休めながら仕事に向き合いました。静寂と孤独のなかで研ぎ澄まされた感覚は、重要な作品の誕生にもつながりました。ヴィルカラが使用した道具やセラミック・アーティストの妻ルート・ブリュックがラップランドをイメージしてデザインしたテキスタイルなどを展示します。
神話性を帯びたガラスのオブジェや、積層合板の木目を活かした有機的な造形、そして金属や木による鳥の像には、プロダクトとは異なるヴィルカラの自由な表現や制作姿勢が見られます。繊細にしてダイナミックなフォルムの競演を楽しんでいただきます。
ガラス制作の長い歴史をもつヴェネチアのムラーノ島において、ヴィルカラは1960年代半ば以降、ガラス工房ヴェニーニの職人らと協働制作を行いました。ヴェネチアン・ガラス最大の魅力である多彩な色をふんだんに採り入れた作品を紹介します。
ヴィルカラが多くの時間を過ごしたラップランドで、溶けおちる氷に着想を得て生みだしたのが「ウルティマ・ツーレ」のガラスシリーズ。最終章では、約300個のガラスのインスタレーションと、全長9メートルにおよぶ同名の木彫レリーフのデジタル映像によって、彼が追い求めた世界の果てのイメージに近づいてみます。
すべてタピオ・ヴィルカラ作
© KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2024 C4780
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