伝統の技と新しさをあわせ持つ、津軽三味線100年に一度の天才
最後に登場したのは現在の三味線ブームの火付け役でもある木下伸市氏。彼の公演はすべて行っているという熱狂的ファンがイベント開始前から並び始めるなど、公演前からすでにその人気の高さを物語っていました。その中には若い人たちも多く見られ、ラフな格好で会場を訪れ、演奏に聴き入る姿を見て、改めて三味線がブームになっていることを実感しました。
津軽三味線の特徴はなんといってもその演奏方法。ばちをたたくような独特の奏法は迫力満点で、特に木下氏はその力強さに加え、超絶技巧な指の動きが加わり、聞く人を魅了します。独奏なのに、メロディとリズムがそれぞれ際立っていて、独奏とは思えない厚みと広がりを感じさせてくれました。
今日はどんな演奏になるのか、私自身にもわかりません
迫力ある演奏に割れんばかりの拍手を送ると、木下氏は迫力満点の演奏とは打って変わって、物静かな口調で、曲の説明や、津軽三味線の説明を始めました。18日(金)の第一回目のイベントでは、
(1)
津軽よされ節
(2) 津軽あいや節
(3) 弥三郎節
(4) 十三の砂山
(5) 津軽じょんがら節
を演奏。2回目は鳴りやまないアンコールの拍手に応えて「津軽三下り」も加わりました。(1) 、(2)、(5)は津軽の三つ物といわれる津軽三味線の代表曲です。
津軽三味線は基本的には即興でやるもので、「二度と同じ演奏はできません」と木下氏。演奏者のその時の気持ちやテンションによって、全く変わるようで、木下氏はその一期一会の演奏を楽しんでいるようでした。
また、もうひとつの津軽三味線の特徴は楽譜がないことだそうで、三味線の技術が口頭伝承で伝えられてきたということに驚く人も多かったと思います。
学校教育の場での和楽器の授業が増えてうれしい
木下さんは、小さいときに三味線を習っていることを友達に知られるのが恥ずかしかったそうです(「じょんがらブルースの歳月」林
英哲より)。小学生くらいの年頃では、自分が人とちょっと違う習い事をしていると、たとえそれが大好きなものでも、照れたり、気後れしたりするようです。
現在、学校教育で和楽器を教える機会が増えてうれしいと話していました。三味線が特別でなく、誰もが親しみやすい楽器になれば、それだけ習う人も増え、演奏者が増えるというもの。伝統芸能に接する機会が多いことと、木下氏のように素晴らしい演奏者が多くの公演を行うことで、こういった伝統芸能は脈々と受け継がれていくことでしょう。
木下伸市氏
1965年和歌山市生まれ。幼少時から、芸人だった両親より三味線と民謡の指導を受ける。17歳でNHK邦楽オーディションに津軽三味線で合格。21、22才で津軽三味線全日本大会で連続優勝。以後、伊藤多喜雄バンドを始め、ハンガリーのヴァイオリニスト、ロビー・ラカトシュなどさまざまなミュージシャンとのジョイントを行う。正調津軽三味線はもとより、現代音楽との融合など実験的な試みに積極的に取り組み、精力的に活動。ダイナミックかつ繊細な音色で多くのファンを魅了している。
昨年は待望のアルバム「魁」「傳」を同時発売し、大好評を博す。
木下伸市オフィシャルWebサイト
http://ホームpage2.nifty.com/king-of-tsugaru/
津軽三味線は青森県津軽地方で生まれた音楽。本来長唄や民謡などのように歌謡の伴奏楽器であった三味線を独走楽器まで高めたのが津軽三味線だといわれています。弦三本の弦楽器でありながら、撥(ばち)を胴に打ちつける「叩き奏法」など、独特の演奏方法があります。また、引き手が個性を出し、自由にアドリブを弾くことがでいることも特徴で、そのジャズにも似た音楽性が、現在若い世代にも支持される理由のひとつになっています。
津軽じょんがら節
津軽を代表する民謡で、津軽三味線の曲弾きとしても名高い。上河原(じょうかわら)で身を投げた僧侶への供養として始まったといわれています。一の糸の開放弦を打ちつける力強い低音のリズムと、三の糸の繰り返しが多い技巧的な旋律が特徴。奏者の個性が出やすい曲です。
津軽あいや節
九州の「ハイヤ節」が新潟に伝わり「佐渡おけさ」に、さらに津軽の「あいや節」になったといわれています。日本民謡には珍しい三拍子系のリズムで、奏者により音階が長調、短調と様々に変化します。
津軽よされ節
即興性が高く、奏者にも人気の高い曲。「よされ」とは、「世去れ」から来ているといわれています。
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ノリノリでした!
岩田花子さん[仮名](東京都北区)
「即興のアレンジが素晴らしかった。いままで聞いたことのない演奏だった。服装も平服で格好つけた感じがしないのも好感が持てました。」
“しびれちゃったよーっ”と通りがかりの人に声をかけられると、「そう!まさにそんな感じ!」と終始ノリまくりの岩田さんでした。 |
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三味線・太鼓はじめました
林さん(東京都渋谷区)
佐々木さん(東京都大田区)
「自分たちも三味線(佐々木さん)と太鼓(林さん)をやっています。今日のアレンジはノッてたって感じかな」
二人とも木下さんの大ファンで公演はすべて見に行っているそう。一見ラッパー風しかし日本古来の伝統芸能に魅せられた若者たちでした。 |
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