北海道美幌町で生まれ、旭川市で育った藤戸竹喜(ふじとたけき・1934-2018)は、木彫り熊の職人だった父親の下で12歳の頃から熊彫りを始めました。まさかりで切った木の塊を渡され、それを自分なりに削る。父はそれを見て、気に入らなければ、火にくべてしまう。そんな繰り返しの中で熊彫りの技を習得した藤戸は、やがて阿寒湖畔に移り住み、この地で才能を開花させて、数多くの木彫作品を生み出します。
藤戸竹喜の作品の特徴は、大胆さと繊細さ、力強さと優しさといった、相反するものが同居していることにあります。一気呵成に彫り進められる熊や動物の姿は、まるで生きているかのように躍動し、旺盛な生命力を感じさせる一方で、仕上げに行われる毛彫りは細密で、硬い木であることを忘れさせるような柔らかな質感を生み出しているのです。また、アイヌ民族の先人たちの姿を等身大で彫った作品群は、精緻な写実的描写の中に、威厳に満ちた存在感を示しており、見る者を深い感動に誘うことでしょう。
本展は、その初期から最晩年にいたる代表作80余点によって、この不世出の木彫家、藤戸竹喜の全貌を、東京で初めて紹介する機会となります。
藤戸竹喜は制作にあたって一切デッサンすることがありませんでした。丸太に簡単な目印を入れるだけで、あとは一気に形を彫り出していく。それはあたかも木の中に潜んでいる形が予め見えていて、それをただ取り出してやっているだけ、というかのようでした。
藤戸はこの能力を、ただひたすら熊を彫り続ける中で身につけました。繰り返し、繰り返し彫ることで、熊の形態を、熊を取り巻く空間を理解していったのです。
17歳の時、藤戸は北海道大学植物園で狼の剥製を見て、「狼を作りたい」と父親に告げますが、父は「熊も一人前に彫れないのに何を言っているのか」と一喝。それ以来、狼を彫ることが藤戸の大きな目標となり、満足のいく狼を彫ることができた時には70歳になっていました。藤戸が80歳を過ぎて制作したのが〈狼と少年の物語〉です。狼(エゾオオカミ)は、明治29年頃に絶滅したといわれ、「動物とアイヌと和人の物語を残したい」という藤戸の強い願いが込められた作品でもあります。
80歳を超えてなお藤戸は、旺盛な制作活動を続け、2017年には北海道と大阪で大規模な個展も開催。さらなる活躍が期待されましたが、2018年、84歳で惜しまれつつ亡くなりました。アイヌ民族として、熊彫りとして、誇りをもって生きた人生でした。「アイヌであればこそ」は、父親の言葉で、藤戸も同じ気持ちを受け継いでいました。
購入方法
◇インターネット予約のうえ開館前に発券(引取期限にご注意ください)入館時間枠は下記よりお選びください
※予約枚数に達し次第売り切れ【注意事項】